食事療法を取り入れて予防医療とがん治療の栄養バランスを整える
食事療法を取り入れて予防医療とがん治療の栄養バランスを整えるために、予防医療・がん治療・食事療法・栄養バランスの基本を解説します。
がんと向き合うと、「何を食べればいいのか」「何をやめるべきか」という情報があふれ、不安がかえって増えてしまう方が少なくありません。インターネットには「がんに効く食べ物」「がんを消す食事法」といった情報が溢れていますが、その多くは科学的根拠が不十分なものです。
食事は私たちの体を作る基本であり、がん治療においても非常に重要な役割を果たします。しかし、だからこそ正しい情報に基づいた食事療法を実践することが大切です。間違った食事法に頼ってしまうと、必要な栄養が不足し、かえって治療に悪影響を及ぼすこともあります。
一方で、予防医療としての食事改善は、がんのリスクを下げるだけでなく、糖尿病や心臓病などの生活習慣病の予防にもつながります。日々の食事を見直すことは、健康な未来への投資と言えるでしょう。
この記事では企業・医療機関の担当者として、がん食事療法と栄養サポートのエビデンス、予防医療としての食事とがん治療中の栄養管理の違い、職場・家庭で実践しやすい栄養バランスの考え方を整理します。
【この記事のポイント】
- がん食事療法の基本は「痩せを防ぎ、必要なエネルギーとタンパク質・ビタミン・ミネラルを確保すること」であり、極端な糖質制限や特定食品だけに頼るやり方は推奨されていません。
- 栄養サポートは、食事の工夫から栄養補助食品、経腸栄養・静脈栄養まで段階的に用意されており、がん治療の副作用を和らげ、治療継続や予後の改善に寄与することが示されています。
- 予防医療としての食事では、「塩分を控え、野菜と果物を増やし、加工肉をとりすぎない」などのがん予防ガイドラインをベースに、無理なく続けられるバランス食を習慣化することが重要です。
今日のおさらい:要点3つ
1. がん食事療法で最も大切なのは、「何を禁止するか」ではなく「どれだけ栄養を保てるか」であり、低栄養を避けることが治療成績にも直結します。
2. 栄養サポートは、管理栄養士・医師・看護師などによる多職種チーム(NST)が関わることで、患者ごとの状態に合った現実的なプランを作ることができます。
3. 予防医療としての食事改善は、がんだけでなく生活習慣病やフレイルの予防にも効果があり、企業の健康経営や地域の保健事業の重要な柱になっています。
この記事の結論
- 食事療法の基本は、がん治療中でも予防医療でも「偏らず、必要な量のエネルギーとタンパク質・ビタミン・ミネラルをとること」であり、特定の食品だけに頼る”奇跡の食事法”は推奨されません。
- 栄養サポートは、がん治療の副作用や体重減少を防ぎ、治療継続と生活の質を支える医療の一部であり、早期からの介入と専門職との連携が重要です。
- 予防医療としては、塩分制限・野菜果物の摂取・加工肉の控えめな利用など、科学的根拠のある食生活の改善を、職場や家庭で仕組みとして継続することが効果的です。
食事は毎日のことだからこそ、正しい知識を持ち、無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。
がん食事療法の基本とは?何を意識して何を信じすぎないべきか
結論として、がん食事療法の最重要ポイントは「低栄養・体重減少を防ぐこと」であり、「糖質を極端に減らす」「特定のジュースだけを飲む」といった極端な療法はリスクが高いとされています。一言で言うと、「がんと闘うのは体力」であり、その体力を支えるのが栄養サポートです。
がん患者さんの多くは、治療中に食欲不振や体重減少を経験します。これは、がんそのものの影響だけでなく、治療の副作用によるものも含まれます。こうした状況で必要な栄養を確保することは、治療を続けるための重要な条件となります。
がん治療中に必要な栄養とエネルギーの考え方
がん治療中は、手術・抗がん剤・放射線治療などにより、通常時よりもエネルギーとタンパク質の需要が増えることが多いと報告されています。
- 患者向け資料では、適正なエネルギーとタンパク質摂取が「傷の治り」「感染への抵抗力」「治療への耐性」に重要であると説明されています。
- 一般的な目安としては、標準体重1kgあたり25〜30kcal/日程度のエネルギー、1.0〜1.5g/日程度のタンパク質が推奨されることが多いですが、実際には年齢・病期・治療内容で調整されます。
このため、体重減少や食欲不振が続く場合には、「食べられていないこと」自体が治療リスクとなるため、早めに主治医や管理栄養士へ相談することが勧められます。
特に高齢の患者さんでは、もともと栄養状態が良くないケースも多く、治療前からの栄養評価と介入が重要視されています。
科学的根拠に基づかない”がん食事療法”に注意
最も大事なのは、「インターネットや口コミで広まる食事療法が、必ずしも科学的に正しいとは限らない」ことです。
- 国立がん研究センターなどは、ケトン食・極端な糖質制限・特定サプリメントの大量摂取などについて、「有効性はまだ十分証明されておらず、栄養不良のリスクがある」と指摘しています。
- 特定の食品だけを推奨し、通常の治療を中止することを勧めるような情報は、エビデンスに反するだけでなく、治療機会の損失につながる危険があります。
がん病態栄養専門の管理栄養士らも、「患者さんの信じている方法を頭ごなしに否定せず、必要な栄養が足りているかを一緒に確認し、危険があれば軌道修正する」というスタンスを重視しています。
「がんが治る食べ物」という言葉には要注意です。がんは複雑な病気であり、特定の食品だけで治すことはできません。しかし、適切な栄養を摂ることで、治療に耐えられる体を維持し、回復を助けることは可能です。
管理栄養士・栄養サポートチームとの連携がなぜ重要か
一言で言うと、「栄養は専門職チームで見る時代」であり、がん治療における栄養サポートは多職種で行うことが推奨されています。
- **栄養サポートチーム(NST)**は、医師・管理栄養士・看護師・薬剤師・リハビリスタッフなどが連携し、低栄養や食欲不振の患者に対して栄養管理を行います。
- ガイドラインでは、治療開始前および治療中に定期的な栄養スクリーニングを行い、問題があれば早期に介入することが推奨されています。
企業の健康経営やクリニックの予防医療メニューでも、管理栄養士による栄養相談や保健指導を組み込むことで、食生活からのがん予防と治療サポートを一体的に行いやすくなります。
栄養サポートチームの介入により、入院期間の短縮や合併症の減少、治療完遂率の向上などが報告されています。
予防医療としての食事改善と、がん治療中の栄養サポートをどう使い分けるか?
結論として、「予防医療の食事」と「がん治療中の食事」は目的が少し違いますが、どちらも「バランス」と「無理なく続けること」が土台です。一言で言うと、「健康なときはリスクを減らす食事」「治療中は体力を守る食事」と考えると整理しやすくなります。
予防医療としての食事:がんを遠ざけるバランス食とは?
日本人のためのがん予防法では、「食生活」のポイントとして、塩分を控える・野菜と果物をとる・熱すぎる飲食を避ける・適正体重を保つ、などが挙げられています。
- 公的な指針では、男性7.5g未満・女性6.5g未満を目安に食塩を控えることが、胃がんなどのリスク低減と関連するとされています。
- 野菜350g+果物50gで合計約400g/日を目標に、緑黄色野菜・淡色野菜・果物をバランスよくとることが、がんと循環器疾患の両方の予防に有効とされています。
企業や自治体の健康施策では、「社食の減塩メニュー」「野菜量が一目で分かるラベル表示」「禁煙とセットの食生活講座」など、日常に溶け込む形で予防医療の食事を支援する取り組みが増えています。
また、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)の過剰摂取は大腸がんのリスクを高めることが報告されており、適度な摂取を心がけることが推奨されています。
がん治療中の食事:症状に合わせた柔軟な栄養サポート
治療中は、「理想的なバランス」よりも「今の体調で食べられるものを工夫して栄養を確保する」ことが優先されます。
- 国立がん研究センター東病院は、がんと食事の情報として「まずは食べられるときに食べられるものを」「3食にこだわらず、こまめに少量を」といった柔軟な方針を示しています。
- 吐き気・口内炎・味覚障害・下痢・便秘などの症状ごとに、冷たいものに変える・味付けを濃い目/薄めに調整する・繊維を減らす/増やすなど、具体的な食事の工夫が提案されています。
この段階では、健康な人向けの「ダイエット」よりも、「体重と筋肉を守る」ことを最優先に考えるべきです。
治療中は味覚が変化することも多く、以前好きだった食べ物が食べられなくなったり、逆に今まで好まなかった食べ物が食べやすくなったりすることがあります。こうした変化に柔軟に対応することが大切です。
職場・家庭でできる栄養サポートの実践例
一言で言うと、「食事療法を個人の努力に任せず、周囲が”仕組み”で支える」ことが成功のコツです。
- 職場では、がんと診断された従業員が休憩時間に栄養補助飲料を取りやすい環境づくりや、社食・コンビニとの連携で高タンパク弁当・減塩メニューを提供する取り組みがあります。
- 家庭では、家族が一緒に「減塩・野菜多め」の食事に取り組むことで、本人だけでなく家族全員の予防医療にもつながります。
- 医療機関では、外来・入院時に管理栄養士が介入し、患者さんの食習慣や好みを踏まえた「現実的なレシピ」や市販の栄養補助食品の使い方を提案しています。
こうした取り組みを企業の公式ブログで紹介することは、「この会社は食事を含めて健康を支えてくれる」という信頼感の醸成にもつながります。
よくある質問
Q1. がん食事療法で絶対に食べてはいけないものはありますか?
A. 一般的に「絶対禁止」とされる食品は少なく、量とバランスが重要であり、主治医や管理栄養士と相談しながら個別に判断することが推奨されます。
Q2. 栄養サポートはいつから受けるべきですか?
A. 体重減少や食欲不振が見られる前から、治療開始前および治療中の定期的な栄養スクリーニングと早期介入が有効とされています。
Q3. サプリメントや健康食品はがん治療に役立ちますか?
A. 一部の補助は役立つ可能性がありますが、エビデンスが不十分なものも多く、薬との相互作用もあるため、使用前に必ず医療者へ相談すべきです。
Q4. 予防医療として、どのくらい野菜と果物を食べればよいですか?
A. 目安として、野菜350g+果物50g程度、合計約400g/日をバランスよく摂ることが推奨されています。
Q5. ケトン食や極端な糖質制限はがんに効きますか?
A. 現時点では十分なエビデンスがなく、栄養不良や体力低下のリスクがあるため、一般的には日常的な治療食としては推奨されていません。
Q6. 職場でできる栄養サポートには何がありますか?
A. 社食のメニュー改善、栄養情報の見える化、管理栄養士によるセミナー開催、治療中社員への弁当支援などが効果的とされています。
Q7. 退院後も栄養相談は受けられますか?
A. 多くのがん専門病院や地域の医療機関で外来栄養相談が行われており、紹介状や予約により継続的なサポートを受けることが可能です。
Q8. 食欲がないときはどうすればいいですか?
A. 無理に食べようとせず、少量ずつこまめに摂る、好きなものを優先する、栄養補助食品を活用するなど、柔軟に対応することが大切です。
まとめ
- 食事療法を取り入れた予防医療とがん治療の鍵は、「低栄養を防ぎ、バランス良く必要量の栄養をとること」であり、極端な制限や単一食品への依存は避けるべきです。
- 栄養サポートは、管理栄養士や栄養サポートチームによる多職種連携を通じて、個々の状態に応じた現実的な食事プランを提供し、治療継続と生活の質を支えます。
- 予防医療としては、塩分を控え、野菜と果物を十分にとり、加工肉を控えるなど、エビデンスに基づく食生活の改善を、職場や家庭ぐるみで習慣化することが重要です。

