就労支援を含めて予防医療とがん治療を会社との対話で両立させる

就労支援を含めて予防医療とがん治療を会社との対話で両立させる


就労支援を含めて予防医療とがん治療を会社との対話で両立させるために、予防医療・がん治療・就労支援・会社との対話のコツを紹介します。

がんと診断された瞬間、多くの方が「仕事を続けられるのか」「収入はどうなるのか」という不安を抱きます。日本では毎年約100万人ががんと診断されており、その約3分の1は就労世代です。つまり、がんと仕事の両立は、決して珍しい問題ではなく、多くの方が直面する現実的な課題なのです。

かつては「がん=仕事を辞める」という考え方が一般的でした。しかし、医療の進歩により、がんは「治る病気」あるいは「付き合っていく病気」へと変化しています。外来での治療が増え、入院期間も短くなった今、治療を続けながら働くことは十分に可能になっています。

一方で、がん患者の約3割が診断後に退職しているというデータもあります。その多くは、会社との対話がうまくいかなかったり、利用できる制度を知らなかったりしたことが原因です。適切な情報と支援があれば、退職せずに済んだケースも少なくありません。

この記事では、企業・医療機関の担当者として、がんと仕事両立を実現するための国の方針、産業医がんの具体的な役割、会社との対話のステップをわかりやすく整理します。


【この記事のポイント】

  • 国は「事業場における治療と仕事の両立支援ガイドライン」を策定し、がんを含む疾病を抱える従業員への就業配慮を企業の重要な責務と位置づけています。
  • 産業医がんの就労支援では、病状と業務内容を踏まえた就業可否の判断、勤務時間・仕事内容の調整提案、会社と主治医の橋渡しなどが中心的な役割になります。
  • 会社との対話を円滑に進めるには、治療スケジュール・配慮してほしい点・利用可能な社内制度を整理したうえで、上司・人事・産業医と段階的に共有することが効果的です。

今日のおさらい:要点3つ

1. がんと仕事両立は、本人・会社・医療機関・支援機関が連携して作る「治療と仕事両立プラン」によって現実味が増します。

2. 産業医がんの支援は、本人への相談対応だけでなく、上司や人事への助言を通じて職場全体の理解と具体的な配慮策を引き出すことが特徴です。

3. 予防医療と就労支援を組み合わせることで、「働きながら検診・治療を続ける」「再発予防とキャリア形成を両立する」という長期的な視点を持てます。


この記事の結論

  • がんと仕事両立を実現するには、国のガイドラインに沿った企業の両立支援体制と、産業医がんを中心とした社内外の専門家との連携が不可欠です。
  • 会社との対話は「早すぎるくらいでちょうどよい」と考え、診断時から相談窓口(上司・人事・産業医・がん相談支援センター)にアクセスすることが重要です。
  • 予防医療の継続(検診・生活習慣改善)と就労支援をセットで考えることで、治療中・治療後も「働きながら健康を守る」長期的なライフデザインが描きやすくなります。

仕事を続けることは、経済的な安定だけでなく、社会とのつながりや生きがいを維持することにもつながります。適切な支援を受けながら、自分らしい働き方を見つけていきましょう。


がんと仕事両立をどう考えるべきか?国の方針と会社の役割

結論として、がんと仕事両立は「個人の問題」ではなく、「社会全体で支えるテーマ」であり、国は企業向けのガイドラインを整備して取り組みを求めています。一言で言うと、「がんになったら辞める時代」から、「治療と仕事を両立する時代」に変わりつつあると言えます。

がんと仕事の両立は、患者さん個人の努力だけでは実現できません。会社の理解と協力、医療機関のサポート、そして社会全体の制度的な支援が必要です。国もこの課題の重要性を認識し、様々な施策を打ち出しています。

国のガイドラインが示す”両立支援”の全体像

厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」は、がんを含む慢性疾患を抱える従業員に対して、企業がどのような就業上の措置・配慮を行うべきかを示しています。

  • 対象となる疾病は、がん・脳卒中・心疾患・糖尿病・肝炎など、反復・継続して治療が必要な病気です。
  • ガイドラインは、「社内ルール整備」「相談窓口の明確化」「主治医・産業医との情報連携」「個別の就業配慮(勤務時間・仕事内容など)」を柱としています。

がん患者・経験者の就労支援については、がん相談支援センターや両立支援コーディネーターの配置など、医療側の体制強化も行われています。

このガイドラインは、企業が両立支援に取り組む際の具体的な指針を提供しており、多くの企業がこれを参考に社内制度を整備しています。

会社が果たすべき就労支援の役割とは?

最も大事なのは、「がんになった従業員を一律に退職させるのではなく、治療と仕事の両立を前提に個別に話し合う文化」を作ることです。

  • 厚生労働省や自治体は、企業向けに「がんになった従業員の治療と仕事の両立支援サポートブック」やガイドブックを作成し、具体的な対応例を提示しています。
  • 企業の実践例としては、就労支援ハンドブックの配布、管理職向け研修、「がん・傷病就労支援プログラム」の構築など、制度と意識の両面から環境整備する動きが増えています。

これらは、がんだけでなく、うつ病・生活習慣病・介護との両立など、広い意味での「健康経営」の一部として位置づけられています。

企業にとっても、経験豊富な従業員の離職を防ぎ、人材を確保する観点から、両立支援は重要な経営課題となっています。

予防医療と就労支援の接点

一言で言うと、「働きながら検診を受けられる環境づくり」が、予防医療と就労支援の接点です。

  • 企業が定期健診やがん検診受診率の向上に取り組むことは、従業員の早期発見・早期治療を促し、結果として就労継続の可能性を高めます。
  • 健康経営銘柄などの取り組みでも、「がん検診の受診促進」と「治療と仕事の両立支援」がセットで評価される傾向が強まっています。

つまり、予防医療は「治療開始後の両立支援を楽にする」ための前段階としても意味があると言えます。

早期に発見されたがんは、治療期間も短く、身体への負担も少ないため、仕事との両立がしやすくなります。予防医療への投資は、将来の両立支援のコストを削減することにもつながるのです。


産業医がんとどう連携する?会社との対話の進め方と就労支援のステップ

結論として、産業医がんと主治医・会社をつなぐことで、「本人の希望」と「医学的な安全性」と「業務上の実行可能性」のバランスが取れた働き方を見つけやすくなります。一言で言うと、「がん治療の専門家が主治医、働き方の専門家が産業医」というイメージで、両者をうまく使い分けることが大切です。

産業医がん就労支援の具体的な役割

産業医は、事業場の労働者の健康管理を行う医師であり、がんと仕事両立では次のような役割を担います。

  • 本人の病状・治療内容・副作用を踏まえ、現在の業務を続けられるか、どの程度の配慮が必要かを医学的に判断する。
  • 就業規則や社内制度に照らして、勤務時間の短縮・時差出勤・在宅勤務・業務内容の変更など、具体的な就業上の措置を会社に提案する。
  • 上司・人事・同僚に対して、「どの程度配慮が必要か」「何に注意すべきか」を分かりやすく伝え、職場理解を促す

このように、産業医は本人の味方でもあり、会社の味方でもある立場から「現実的な落としどころ」を一緒に探る役回りです。

産業医は守秘義務を負っているため、本人の同意なく病状の詳細を会社に伝えることはありません。安心して相談できる存在です。

会社との対話を始めるタイミングとコツ

最も大事なのは、「治療が始まってからではなく、診断時や治療方針が決まった時点で早めに相談を始める」ことです。

  • 厚生労働省の「仕事と治療の両立支援」では、がん診療連携拠点病院などで両立支援コーディネーターが、診断時から仕事の相談に乗る体制整備を進めています。
  • 会社側には、まず直属の上司か人事部門に「診断されたこと」「治療の大まかなスケジュール」「仕事を続けたい意向」を伝え、産業医面談の設定を依頼するのが一般的です。

対話をスムーズにするためのポイントとして、次のような事項を事前に整理しておくと役立ちます。

  • 主治医からもらった診断書や意見書に記載された、就労上の配慮事項(勤務時間・仕事内容など)
  • 通院や治療の頻度・所要時間(例:週1回の外来化学療法、2〜3週間の入院など)
  • 自分として「ここまでなら働ける」「ここは負担が大きい」と感じる業務・働き方

これらをもとに、「休職か継続か」という二択ではなく、「どのように工夫すれば続けられるか」を一緒に探る姿勢が重要です。

予防医療と就労支援を一体で考える実践ステップ

一言で言うと、「働き続けること自体を予防医療の一部と捉え、心身の健康とキャリアの両方を守る設計」を意識することが大切です。

  1. ステップ1:定期健診・がん検診の結果を放置せず、異常があれば早めに精密検査と主治医受診を済ませる(早期発見は両立しやすさに直結します)。
  2. ステップ2:診断がついた段階で、がん相談支援センターや両立支援コーディネーターに相談し、「治療と仕事両立プラン」や支援制度の情報を集める。
  3. ステップ3:会社の就業規則・休職制度・傷病手当金・有給休暇などを確認し、経済面と働き方の選択肢を把握する。
  4. ステップ4:産業医面談を通じて、主治医の意見と本人の希望をすり合わせ、「当面3か月」「半年」などの目安を持った働き方プランを作成する。
  5. ステップ5:治療経過や体調の変化に応じて、定期的に上司・人事・産業医と振り返りを行い、勤務形態や業務内容を柔軟に見直す。
  6. ステップ6:治療後は、再発予防や二次がん予防を含めた予防医療(生活習慣・検診)と、キャリアプランの再設計を並行して考える。

企業の公式ブログとしては、このステップを自社の制度や相談窓口と紐づけて紹介することで、「この会社なら相談できる」という安心感を伝えられます。


よくある質問

Q1. がんと仕事両立は現実的に可能ですか?

A. 多くの事例で勤務時間や仕事内容を調整しながら継続して働いており、国のガイドラインも両立支援を前提に制度整備を求めています。

Q2. 産業医がんの相談は、いつ・どう申し込めばよいですか?

A. 診断や治療方針が決まった段階で、上司や人事を通じて産業医面談を依頼するのが一般的で、会社の規程に手順が明記されている場合も多いです。

Q3. 会社に病名まで伝える必要はありますか?

A. 詳細は個人情報ですが、治療内容や必要な配慮を説明するために、がんであることや大まかな治療スケジュールを共有するケースが一般的です。

Q4. がんの治療でどんな就業配慮がとられていますか?

A. 短時間勤務・時差出勤・在宅勤務・軽作業への一時的配置転換・通院日の休暇取得などが、ガイドラインや企業事例で示されています。

Q5. 中小企業でも就労支援は受けられますか?

A. 地域産業保健センターや産業保健総合支援センターが、小規模事業場向けに産業医的な相談支援を提供しています。

Q6. 休職せずに働き続ける方が良いのでしょうか?

A. 体調や治療内容によって適切な選択は異なり、産業医や主治医と相談しながら無理のない範囲を決めることが重要です。

Q7. 企業として、がんと仕事両立にどう取り組むべきですか?

A. ガイドラインに沿ったルール整備、管理職研修、就労支援ハンドブックの作成、相談窓口の明確化などが有効とされています。

Q8. 傷病手当金はどのくらいもらえますか?

A. 健康保険から、給与の約3分の2が最長1年6か月支給されます。詳細は加入している健康保険組合にお問い合わせください。


まとめ

  • がんと仕事両立は、国のガイドライン・企業の両立支援体制・産業医がんの関与を通じて「治療と仕事両立プラン」を作ることで、現実的な選択肢になります。
  • 会社との対話では、主治医の意見書・治療スケジュール・希望する働き方を整理し、上司・人事・産業医と段階的に共有することが成功のコツです。
  • 予防医療と就労支援を組み合わせることで、がんと診断されても「働きながら自分らしい生活を続ける」ための長期的な健康・キャリア戦略を描きやすくなります。